魅惑のナイトヘリクルージングデート

「ねぇ、女の子がキスしたい場所の1位ってどこだと思う?」
 夜中の1時半。ようやく眠りについたころに突然鳴り出したケータイの向こうで、彼女は唐突に聞いてきた。
「……リトミシュル・ホテル、かな」
「どこ? それ」
「チェコにあるホテル。そこには電話がなくて、他人の眠りを邪魔する人もいない」
「それって冗談? それとも怒ってるの? もういいわ。眠りの邪魔してごめんなさい」

 そう言ってまた唐突に電話が切れた。先々週の火曜のことである。その後、ぼくが彼女のクイズ(と呼べばいいのだろうか)の答えを知ったのは3日後のこと。テレビの中でアルチザンのスーツを来た男性が、スポーツ新聞を棒で指しながらせわしなく「1位は、夜景のきれいな場所ぉ」と騒ぎ立てていた。

 夜景のきれいな場所。通勤途中のバスの中でその答えを反芻しながら、ぼくは彼女の誕生日のことを考えていた。断っておくが、ぼくは彼女のことが好きである。彼女を喜ばせるためだったら空だって飛ぶ覚悟だ。ただし眠くさえなければの話だが……ん? 空?

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「どうせ飛行機を見るのならセントレアの方が良かったのじゃないかしら」。
 そう言いながら、ミニのカーラジオを長い指でいじる彼女。先ほどからフィッシュマンズの「ナイトクルージング」がゆったりと流れている。あれから2週間。ぼくが彼女の誕生日を祝う場所として選んだのは、空の上だ。県営名古屋空港からヘリコプターに乗って夜の街を見下ろす。決まったコースを飛ぶプランもあるが、今回は二人の思い出の場所も特別にまわってもらうことにした。彼女には、飛行機でも見に行こうと誘ってここまできたのだが、先ほどから急に彼女がニタニタしはじめた。
「何か分かってきちゃった。でも、気付かないフリしてたほうがいい?」
「いや。ぼくらはこれからヘリに乗るんだ」

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 自分たちが乗るヘリコプターをはじめて見たときの彼女の感想は、カワイイだった。
「私、ヘリコプターってもっともっと大仰で攻撃的なものだと思ってた。でもこれなら家にあってもいいぐらいだわ」
「そうなると、あのパイロットも連れて帰らなくちゃならない。食費が大変だ」
 そんな会話を交わしながら、いよいよ機内に乗り込む。そして、エンジン始動。翼が回転をはじめ、まわりの空気がブルブルと震えだした。これじゃあ、隣近所も黙ってないな。そう思った瞬間、クレーンか何かで吊り上げられたような感覚があり、同時に彼女がぼくの袖をギュッと掴んできた。
「ちょっとぉ、飛んでるよ!」
 どんどん小さくなっていく街の光。その景色を眺めながら、お祝いのセリフを口にしようとしたとき、彼女が言った。

「ねぇ、夜景のきれいな場所でイチバンしたいことって何だか知ってる?」
 
 
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