スギが日本酒を旨くする
「酒は飲みたし 銭はなし 酒の林を見て通る」
新酒の完成を告げる酒林(さかばやし)は、スギの葉を束ねて丸く刈り込んだ酒屋さんの看板。茶色いウニの親分のような姿をときどき目にするかと思うが、本来はスギの葉の色をした、どちらかといえばマリモのような代物である。毎年、暮れが近づくと、青々とした酒林が店先に吊り下げられ、見る人に旨い酒の季節が到来したことを知らせたものである。
スギは酒の神を奉る三輪神社(大神神社)の神木。そんなわけもあってか、日本の酒造りにはスギがあちらこちらの場面で登場する。たとえば酒樽である。ウイスキーの樽にはホワイトオークがよく使われるが、日本酒の樽には古くよりスギが利用されてきた。その起源は室町時代までさかのぼるといわれている。スギが酒樽に利用されたのは、その優れた加工性もあるが、いちばんの理由は、スギのもつ成分と独特の香りにある。これが酒を一段と旨くする、いわば “隠し味” だったのだ。そのため、わざわざスギの香りを付けた樽が流行したこともあったとか。
また、スギの産地として有名な吉野の林業は、実は酒樽を作るために発達したというのもホントの話。酒樽の用材は年輪の幅が均一にそろっていることが条件。吉野では長年にわたる密植・間伐の繰り返しのなかで、年輪幅を一定にする調整法を発見。美術品ともいえるスギの酒樽を作ることに成功したのである。
ヒノキと比較され、ことあるごとに「二流」「廉価」の看板を背負わされてきた感のあるスギ。だが、実は日本人のいちばん近くにいて、常にその生活を豊かにしてきた木であったのだ。
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